FCP-047 シャチのいる湖
Character Class Careful
FCP-047はラダクナーボ中西部に位置する、約2.7㎢ほどの淡水湖です。動画共有サイトにてその特異性が記録された動画が投稿されたことで発見され、エージェントの現地調査によりFCPとされました。動画投稿主には記憶処置を施し、「動画はCGによって作成された」という追加情報が流布されました。水質は良好で、生息する生物はラダクナーボにある他の湖とさほど変化はありません。
FCP-047の特異性は、その領空内に天使が入ると現れます。天使が水面から300m以上離れた高さにいる場合、FCP-047の水面がわずかに波立ちます。その際、天使のみが聞き取れる特殊な音波を発生させていることが判明しています。天使が下降して水面との距離が近くなると、それに応じて波の量が増えます。天使が水面から150mほどの高さまで来ると、「help」とも聞こえるような波音を発生させます。更に、FCP-047の中央部に魚影らしきものが見受けられるようになります。そして天使が水面に10mほどにまで近づくと、FCP-047から最大で二頭のシャチが飛び出し、天使を捕食します。シャチが着水する、もしくは天使がFCP-047の領空外へと移動すると、水面の波は消えます。なぜシャチが生息しているのか、何故 天使に対してのみ反応するのか等はいずれも不明です。
FCP-047は以前からラダクナーボの観光名所の一つとされており、現在も観光客の足は絶えません。FCP-047の特異性は観光客に危害を与えるものではないので、上空の動体検知と水面の監視の上、観光客の入場を許可しています。FCP-047の特異性が発生した場合、速やかな沈静化と全観光客への記憶処置を行ってください。
FCP-047調査記録
実行日:20▅▅/▅▅/▅▅
調査隊:Lucay博士、水中調査隊ルックソーン
〈記録開始〉
アレフ:メインカメラオン、記録を開始する。
シン:サブカメラオン、記録開始。
Lucay博士:カメラチェック…双方、異常なし。
アレフ:良し。全員、水中銃と潜水装備チェック。
(メンバーが装備のチェック。銃を水中に入れ二発ほど試射)
ヴェイ:異常なし。
シン:異常なし。
ギメル:異常なし。
アレフ:異常なし。
Lucay博士:では、これよりFCP-047領空内に天使を向かわせます。特異性が確認され次第、調査を開始してください。
ヴェイ:博士、天使が領空に現れてから調査にかけられる時間はどの程度です?
Lucay博士:好きなだけ。天使にはこちらの指示に従ってFCP-047に近付くよう言ってありますから。ただし、FCP-047の特殊な音波につられ天使が勝手に移動する可能性があるため、スムーズな調査をお願いします。
アレフ:了解。
(320秒間、会話無し。その後、FCP-047の水面に僅かな波が発生する)
アレフ:特異性確認、これより調査を開始する。陣形は05。
(メンバーが入水。映し出された水中に魚影は確認できない)
シン:うーん、ぱっと見、なんもいませんねー。博士、試しにサブカメラだけ露出補正とかコントラストとかいじっていいです?
Lucay博士:どうぞ。
(補正によりサブカメラ映像が明るくなる。が、魚影は確認できない。)
ヴェイ:リーダー。現時点では危険はなさそうですし、外周を調べる側と中央付近付近を調べる側の二手に分かれて調査しません?
アレフ:ふむ…、博士、いかがです?
Lucay博士:許可しましょう。ただし、天使を降下させる場合は全員が集合した状態で行ってください。
ヴェイ:了解。んじゃ、シンと俺で外周の調査しますんで、ギメルとリーダーは中央付近をお願いしても?
アレフ:分かった。なら、20分後…いや、15分後でもいいか、そのくらいで一旦合流しよう。
ヴェイ:了解、気を付けてくださいねー。
ギメル:其方こそ。
(二手に分かれての調査開始。両者のカメラに異常はなし。約12分後に合流)
アレフ:良し、無事に全員集まったな。どうだった?
シン:すみません、収穫はゼロです…ほんと、なんの変哲もありませんでした。
ヴェイ:シャチがここに来るための通り道になりそうな穴とか見つけたかったんですけどね…。
アレフ:そうか…。此方もシャチどころか何も発見できなかった。初期状態じゃ異常は無しってところかな…博士、天使の降下をお願いします。
Lucay博士:了解、天使を150mほどまで降下させます。
アレフ:良し、陣形06、全員でシャチがどこから現れるか確認しよう。カメラ持ちのシンは俺の背後、サイドの二人は何か見つけたら俺かシンに教えてくれ。
(200秒間、会話無し。監視カメラから、FCP-047からの波音の発生と魚影を確認。メンバーのカメラ映像に変化はなし)
Lucay博士:波音と魚影を確認。全員、警戒しながら調査を開始してください。
アレフ:なっ…、…了解。…シン、見えたか?
シン:あー、いや…影どころか何も…。
ヴェイ:…俺も。
ギメル:此方も何も確認できませんでした。
アレフ:シャチの出どころはわからず、か…。だが、シャチにビーコンをつけることができればまだ可能性はあるな。博士、魚影は今 どこに?
Lucay博士:今は…中心部分をぐるぐると回るように泳いでいるように見えます。
ギメル:つまりこの周辺?それにしては何も見えないけど…。
アレフ:とりあえず探すぞ、話はそれからだ。陣形は05に戻す。
(シャチの捜索を開始。十数分間、カメラ映像に変化はなし)
ギメル:…いない…。
シン:博士、魚影の位置は変わってないですか?
Lucay博士:えぇ、魚影は移動していません。
アレフ:もう少し続けよう。
(3分間、会話無し)
ヴェイ:…なぁシン。
シン:ん、なに?
ヴェイ:…気付いてないのか?
シン:え?
アレフ:ヴェイ、どうした。
ヴェイ:あ、いや…その、「help」って波音、っていうか声…ずっと下から聞こえてくるんですけど。
(70秒ほど休止)
アレフ:……波音が聞こえてくるにしてはでかいとは思ってたが、そういうことか。
ギメル:リーダー、もう一度 下を調べてみましょう。これだけ探して見当たらないとなると、魚影はFCP-047が作った幻影の可能性もあります。
アレフ:そうだな…何が起きるかわからないから、陣形は03で行くぞ。これなら何かあっても一人は逃げられるだろう。
シン:私、一番後ろに行きますね、カメラあるんで。
ヴェイ:はぐれないようにな。
(5分間、潜水。「help」の音が大きくなってきているのが分かる)
アレフ:…おかしいな、さっきはこのくらいでもう底が見えていた気がするんだが…。
シン:え、そうなんです?
アレフ:いや、すまない、気のせいかもしれないな。状況が状況だから少し駆り立てられているのかもしれない。
(数分後、激しいノイズと共にサブカメラの映像が切れる)
アレフ:なんだ!?
ヴェイ:シンがいない!
ギメル:私の後ろを巨大な何かがすごいスピードで過ぎていったわ!きっとそいつがシンを…!
ヴェイ:嘘だろ!?嘘だと言ってくれよ!!
アレフ:落ち着け!そして騒ぐな、敵を刺激しかねない!
Lucay博士:陣形01!全員、口を閉じてその場に待機!!
(120秒間、休止。その後、ノイズ)
Lucay博士:…よし。今、天使をシャチに捕食させ特異性を終息させました。これで安全に退避できるはずです。
ヴェイ:…博士、シンは…。
Lucay博士:…カメラ映像は既に切れてます。探す必要はありません。退避してください。
ヴェイ:そんな…!なんで…!
アレフ:ヴェイ、行くぞ。下手に探すと俺達までやられる可能性がある。
ヴェイ:そんな…、シン…っ…。
〈記録終了〉
後書:アレフ、ヴェイ、ギメルの三者は無事に非常し、待機していた職員とLucay博士に保護されました。ヴェイは精神的ショックが伺えるため、後日セラピー治療が予定されています。
ルックソーン隊員ヒアリングログ
実行日:▅▅/▅▅/11:20~
回答者:水中調査隊ルックソーン隊員シン
質問者:Lucay博士
前書:▅▅月▅▅日、FCP-047監視チームより「湖から女性が上がってきた」と報告が入りました。報告を受けFCP捕獲隊が現地に向かったところ、その女性がFCP-047調査中に消息を絶ったシンであることが確認されました。シンの身体検査後、ヒアリングが行われました。
〈記録開始〉
Lucay博士:…本当に貴方なのですね…シン?
シン:え、え、博士までですか…?…そうです、私です、顔見てわかるはずですよ。…昨日からずっとそう聞かれて、もう何度答えればいいんですか…。
Lucay博士:…ですが…、んん、いえ、失礼、私的な話は後にしましょう。…この一か月間、貴方は何処でなにをしていたのですか?
シン:…え?一か月?どういうことです?
(Lucay博士がデジタルカレンダーを見せる)
シン:…ホントに一か月経ってる…あそこにいるの、感覚的に数日くらいだったのに…。
Lucay博士:あそこ?
シン:あ、えぇと…FCP-047の中だったとしたら湖底。そうじゃなかったとしたら海底です。目覚めたらそこにいました。でも、潜水道具が無くなっているのに息ができて、お腹とかも減らないから…私、死んじゃったのかなって思いました。だからこうして生きてるの、実は私自身も少し驚いています。
Lucay博士:そこで何かみましたか?
シン:正直、暗くてあんま良く見えなかったですけど…海藻と、土と、岩と…あと、足枷と鎖で繋がれた▅▅▅▅。
Lucay博士:▅▅▅▅?
シン:えぇ。あの子自身が、自分は▅▅▅▅だって言いました。近付いてみてみたら、ちゃんと翼もありましたし。
Lucay博士:あの子というのはその▅▅▅▅のことですか?
シン:はい。私もまさか彼女が生きてるとは思わなかったから、話しかけられたときはびっくりしたけど…敵意はなさそうだったのでそのまま少し話をしました。
Lucay博士:詳しく。
シン:えっと…彼女はソラを裏切り、その罰としてここに永遠に閉ざされることになったらしいです。ソラっていうのは、多分、▅▅▅▅とか他の▅▅▅のことじゃないかなって思います。ほら、▅▅▅▅の▅▅も「ソラ」って読みますし。それで…ああ、そうです、あのシャチ達は彼女の唯一の友達なんです。シャチ達が私に体当たりしたのは、敵か味方かもわからない部外者から彼女を守るためと…彼女がそう言ってました。
Lucay博士:シャチが天使を襲う理由については聞きましたか?
シン:はい。でも、それは彼女の命令じゃなくて、シャチ達が勝手にやってるらしいです。なんかそれは、彼女がソラを裏切るまでの経緯が関係してるみたいで。
Lucay博士:その経緯については聞きましたか?
シン:え、あ、はい、一応…。でもちょっと長くて、私も完全に理解したわけでもなくて…。
Lucay博士:構いません。無理に言葉をまとめる必要はありませんよ。話してください。
シン:そう、ですか?……わかりました。えっと、結論から言っちゃうと、彼女は自分の姉を守るためにソラを裏切ったんです。
Lucay博士:姉?▅▅▅には性別はないのでは?
シン:いや、なんか…死んだ時になにかに引き込まれてそのまま▅▅▅になるっていう人が極々稀にいるらしくて。彼女とその姉もそうやって▅▅▅になったらしくて。それで、そういう人は人間の時の性別を引き継いだり引き継がなかったりとか…、それで…(20秒ほど沈黙)…うぅ、すいません、ここは聞いたことない名前とか原理とかがたくさん出てきて、本当に私もよくわからなくて…。
Lucay博士:致し方ありません、ここは便宜上で姉と呼ぶ、ということにしましょう。続けて。
シン:あ、ありがとうございます。…それで、裏切った理由なんですけれど…なんか、ある時からその姉がいなくなっちゃったらしくて。いろんな所を飛び回って探したらしいんですけれど、見つけられなかったらしいです。でも、その数年後…▅▅▅狩りをしていた時に、その▅▅▅の中に姉がいたとか。
Lucay博士:…どういうことです?
シン:それが私も、というか彼女自身もよくわかってないんですよ。本来はあり得ないんですから。…けれど、直感で感じたらしいんです、あの▅▅▅が姉だって。姉妹の絆の力、でしょうかね。…あぁ、そうです、いなくなった時、姉は危険な仕事を単独で命じられてたらしくて。それが原因なのかな…。かなりこじつけみたいになっちゃいますけれど、でもそれ以外にシャチ達が天使を襲う理由は思い当たらないって彼女も言ってましたし。…それで、姉が逃げるのに協力して、それがソラへの裏切り行為とみなされて…、…っ、す、すいません、博士、ちょっと頭痛が…。
Lucay博士:あぁ、保護されたばかりなのに無理をさせてしまいましたね、ごめんなさい。…ただ、最後にこれだけ聞かせてください。シン、貴方はその湖底から、どうやってFCP-047のところまで戻ってきたのですか?
シン:え?あぁ、それは…、……あれ…、どうだったけ…え、えっと…。
Lucay博士:無理に思い出そうとしなくても大丈夫です、今回はもう休みましょう。
シン:い、いや、なんか、もうちょっと、もうちょっとで出てきそうな感じがするんです。もう少しだけ…。
〈記録終了〉
後書:シンは観測者 Yurieが強制的にヒアリングを終了させるまでの15分間、帰還方法を思い出そうとし続けました。その後もシンは帰還方法を思い出すことに躍起になっており、エージェントとしての仕事を全うできない状態にあります。現在、帰還方法を思い出すまで待つか、記憶処置を施すかについての議論が慎重に行われていますが、依然 平行線を辿っています。
